モデル動物からの発見

1東京大学医学部糖尿病代謝内科、2筑波大学臨床医学系内科

石橋俊1、大須賀淳一1、野牛宏晃1、北峰哲也1、山田信博2

発生工学の手法を使って、様々なリポ蛋白代謝異常のモデル動物が作成され、動脈硬化研究の重要な資源として活用されている。遺伝子操作の対象とした遺伝子の機能から予想される表現型が得られる場合が多いが、予期しない意外な表現型が観察されることも少なくない。最近経験した、そのような事例を紹介したい。1)例えば、細胞内のコレステロールをエステル化する酵素であるアシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)のACAT-1のノックアウトマウスにおいて、涙液に脂肪を供給する機能の想定されているマイボーム腺の萎縮と、そのための眼瞼裂隙の狭小化が観察された。これは臨床的に「ドライアイ」として知られる徴候に類似している。また、著明高脂血症の存在下では、これらのマウスは重度の皮膚黄色腫が発症した。その詳細なメカニズムは現在のところ不明であるが、ACAT阻害薬の臨床応用を考える際に注意したい所見であろう。2)また、脂肪細胞に蓄積したトリグリセリドを分解して放出する酵素とされてきたホルモン感受性リパーゼ(HSL)のノックアウトマウスでは、予想される肥満は生じず、精子の形成不全に起因する男性不妊を呈した。脂肪細胞におけるTG分解酵素としての機能よりも、精巣におけるコレステロールエステル分解酵素としての機能の方が、HSLの主要な生理的役割であることが確認された。これらの予期せぬ知見から、動脈硬化以外の疾患の原因が発見され、その治療法の開発に繋がるかもしれない。