脂肪肝の病態への腫瘍抑制因子p53の活性化の関与

東京大学医学部糖尿病代謝内科、筑波大学臨床医学系内科(代謝・内分泌)

矢作直也、島野仁、関谷元博、松坂賢、武内謙憲、大橋健、石橋俊、山田信博、大須賀淳一、門脇孝

【目的】遺伝的肥満マウスであるob/obマウスは、レプチン遺伝子の欠損により、肥満、脂肪肝、高インスリン血症などのメタボリックシンドロームを呈する。我々は以前、脂肪が過剰に蓄積しているob/obマウスの脂肪細胞において、腫瘍抑制遺伝子p53が活性化されていることを報告した。p53はDNA障害時に活性化され、障害を受けた細胞に対して増殖を停止させたり、死滅させたりする働きがよく知られているが、実は、酸化ストレスを含め様々なストレスにより活性化されることも知られている。今回、肝臓への中性脂肪の過剰な蓄積が脂肪と同様にp53の活性化をもたらすかを検討すると共に、脂肪肝に伴う肝細胞障害にp53が関与しているか否かを検証する。
【方法】マウス脂肪肝モデルであるob/obマウスとSREBP-1過剰発現マウスとで肝臓のp53の発現を調べる。またob/obマウスにp53ノックアウトマウスを交配し、p53を欠損させることによって肝細胞障害が軽減するかを検討する。
【成績】ob/obマウス及びSREBP-1過剰発現マウスの肝臓において、核内のp53蛋白量の増加が見られた。p53を欠損したob/obマウスでは血中ALT値が低く、肝細胞障害が減弱していた。またSREBP-1欠損ob/obマウスでは脂肪肝の改善に伴い、p53経路の遺伝子発現が減弱し、肝細胞障害も軽減していた。
【結論】脂肪肝における肝細胞障害に腫瘍抑制遺伝子p53が関与していることが明らかとなった。